黄金の林檎を片手に
どこの話だったかは忘れたけれど。 とある美人の神様を妻にしたくて、男達が次々と群がった。 しかし神様は自分より強い相手でなければ嫌だといい、かけっこ競争を始めた。 神様は群がる男共を次々と負かしていった。 しかしとある男がとある方法で黄金の林檎を入手する。 男は神様と競争している最中、黄金の林檎を落とす。 神様は林檎が欲しくてたまらない。一つ二つ三つ、拾ってゆくうちに―――男は勝った。 「…んで?だからどうしたって?」 エリオットは長い話にうんざりしてしまったようで、面倒そうに相槌を打つ。 相槌の仕方なんぞどうでもいい私は、ぼんやりと言葉を続ける。 「私も似たようなモンだと思うんだよ」 「…お前、林檎ばら撒いて餌付けてンのか」 「やめてくれない、その白い視線やめてくれない」 とりあえず腹いせにエリオットの後頭部に裏拳を繰り出し、 痛ぇ!と喚くのも無視して窓の外を眺める。 血を流したような赤の向こう側にある、元の世界を思い出し、今いるこの世界を重ね合わせる。 「…餌付けてるのよ。林檎じゃなくて、存在で。…心臓で」 余所者という珍しいたまらなく惹かれるものをぶらさげて。 普段なら動じない人間をふらつかせて、最後には奪ってしまう。 私は卑怯な男と同じだ。何一つ、変わらない。 「…が謙虚だと気持ち悪ぃな」 「わーい、耳毟られたいのかなエリオットちゃんは」 「目が恐ぇ!本気の色を帯びてる、やめろ、迫るな!」 青ざめて耳を押さえて後ずさるエリオット。 でかい図体がなにやら可愛らしく震える小動物にみえて、くすりと笑う。 …ああもう、なんていうか、どうでもよくなってきた。 殺気だった空気がけしとんだ私をじいと見つめ、エリオットは小さく呟く。 「…その男とお前じゃ、全然違うだろ」 「そう?」 「黄金の林檎は男の一部じゃねえし…お前の林檎は、お前全部だろ」 …至極当たり前のように言うエリオットに、恥じらいなど欠片も見当たらない。 自分がとんでもなくくさい台詞を吐いてるだなんて思いもしてないのだろう。 ああ、そうか。餌付けられてるのは。林檎を拾われたのは。 「……口説くならいまのうちよ、エリオット」 「は?何だよ唐突に」 「今なら私、三秒であんたに惚れる」 ( 競争もゴールも知らないから早く拾って! ) 「黄金の林檎を片手に」 雨鳴さん(理不尽) ←back |