蝶が笑ったらその時は


「ねぇ、見てパパ」

時計塔の最上階、誰も居ないその場所に少女はいた。両手広げて空に手を伸ばして
スカートがはたはたとゆれる。指先には金色の蝶、自慢げにその相手に見せる彼女は無垢。
彼女こそ蝶みたいだと、パパと呼ばれたものは答えた。

「綺麗だな」
「ねー」
「お前が」
「ありがとう、でもこの蝶々は勇者だわ」
「そうか?」

「だって、私に愛に来て触れてくれた」
(なんでもないそんな私の存在に)
自覚はしている。ちくたくの音は私の心臓の音はパパよりも軽い音なのよ。
それでも、パパは・・私をパパ以上に大切に扱うから、
私はパパを亡くしたりはしたくないの。この幸せに溺れる為ならなんでもする。

「偉い子でしょう?」

にっこりと彼女は笑って、パパへと向き合う。指には綺麗なきれいな蝶を乗っけて、

「ああ、でもお前がいい子にしてたから、この蝶は来てくれたんじゃないか?
「そうかな?パパがまじめに働くからだよ。きっと」
「お前はよく私を手伝ってくれる」
「パパは睡眠時間を削って仕事してる」

この褒めちぎりあいにきっと終わりは無いね。
蝶は少女の指の上で満足そうに幸せを噛み締めて笑った。







「蝶が笑ったらその時は」 秋月しをんさん(R-te 2

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