グロテスクな罪に濡れ


まただ、私は激しい頭痛に見舞われる。
父さんとの約束を破ってしまった。気がついたら此処はハートの城
私も周りはたくさんの死体死体死体。スカートがべっとりと血のあとでどす黒い。
私は父さんと言う枷に強く強く縛られているというのに
縛られて動けないのが父さんにとっての幸せなのに、
私を傷つけることが、父さんの幸せ。

言葉で言われたわけじゃない。経験的に悟ったのだ。
帽子屋屋敷のメイドが影で、私に聞こえないように、私を哀れむ声で
私がどこかに出かけた日は、私が怪我する日だって。


「・・・・」


私は、父さんの大切なものではない。なのに父さんは自ら敵の地へと乗り込んできて、
何でなんだろう。何でなんだろう。私の傷をえぐる。
私には、そう、

「何でこんなところにくるのぉ?」
「私は帽子屋だからね」
「危なくない?」

が・・・ん
「っ・・つ・・・・!」
額から血の雫が流れ出る。ほたほた、つうと鼻を伝って、口に入る。
鉄の味、父さんは私を必要としない。だって私は名無しのカード以下の存在。
「帰る」
「はい、父さん」
私は罪におぼれる。藁をもつかめない。
過保護なぐらい傷つけられて、痛みつけられて、それだけ。
私に許されたのは箱庭の世界で、一人をあの人を愛することだけ。
(何てグロテスクな現実だろう。私は愛なんかわかっちゃいないのに)






「グロテスクな罪に濡れ」秋月 しをんさん(R-te 2

←back