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「銃声と罵声で聞こえなくなった御伽噺(あのお姫様は幸せになれたのかな)」幸さん


「パパ………」
ぎゅっと、冷たい体を抱きしめる
アデレード」
やんわりと力のない笑みを浮かべて、それでもパパは私を抱きしめ返してくれる
「ママ、攫われちゃったね」
たった数時間帯前の光景を思い出す
鳴り響いた銃声と怒鳴り声の中で、お母さんは攫われていった

「そうだね、アデレード。寂しいかい?」
私の髪をやんわりと撫でて、パパは尋ねた
「さびしいのは、パパでしょう?だって、パパは」
パパがどれだけママのことを愛していたのかなんて、子供の私がよく知っている

「いいのさ、これで。悪い魔法使いに囚われたお姫様は、愛する王子様に助けられてめでたしめでたし、が正しい御伽噺だ」

どうして、そんなことを言うの。泣きそうな顔をしてるのに
「あれは、悪い盗賊じゃないの?お姫様をさらってしまう」
あの人はとても怖かった。あんな人が、王子様だなんて信じられない
「だとしても、お姫様が待っていたのは、彼だけなんだよ。
たとえこれからどんなにひどい目に合おうとも、アリスが本心ではずっと望んでいた相手だ」

「本当は君もアリスの傍に、両親の側にいるべきなんだろうけどね、アデレード。今のあの男では、君にどんな扱いをするか分からないから」
謝らないで。あんな男、血が繋がってるだけの他人だわ
私のパパは、一人だけなの
この心が、伝わればいいのに
本当は私の心も読めるはずのパパは、けれどずっと前に一つの約束を自分としている

『私が触れるのは、アリスの心だけでいい』
その時の、パパの顔は娘の私からみてもとても魅力的だったのに
どうして、ママはパパを置いていってしまったのだろう

「だからね、アデレード。私の可愛いお姫様。もう少しだけ、君のパパでいさせてくれるかい?」
「もちろんよ、パパ。ずっとそばにいさせて」
かちかちと、時計の音が早くなる
本当は、娘のままでいたくないと思う私は、やっぱりパパの娘じゃない
それとも、ママの娘だからこんな風にパパのことを思うのかしら


「ねえ、パパ。ぎゅっとして」
でも娘のままなら、パパのお姫様でいられるから
伝わって欲しいと願いながら、伝わらないのをいいことに甘えるの

「お望みのままに、お姫さま」
少しおどけた調子で、パパは私を抱きしめる腕に力をこめる

ママは、あの銃声の中で笑って連れ去られたお姫様は
幸せになれたのかな?

今、パパの腕の中で幸せを感じている私には、関係のないことだけれど