「簡単に押し倒せるのに」 月華さん 「ブラッドやアリスがアンタのことを鳥みたいだっつってたけど、本当にそうだな。」 エリオットの私室。 ベッドの上。 彼はを組み敷いた形で彼女を見下ろし、半ば独り言の様にそう呟いた。 「どうしたの、急に。ウサギちゃん。」 彼女は常と同様軽い口調で言葉を紡ぎ、 片手を伸ばしてエリオットの鮮やかな橙色の髪に指を滑らせる。 存外柔らかな彼の髪は、するすると指の間を滑らかな動きで落ちた。 「俺はウサギじゃねぇって言ってるだろうが!」 一層機嫌を損ねた様に返すエリオットに、はほっほ、と、 常の芝居染みた笑い声を上げて見せる。 彼は深く大きな溜め息を吐き、 同時に彼女の肢体に覆いかぶさる如くして抱き寄せた。 「こう言う状況になっても、余裕があるのはいつもアンタだ、。 アンタは俺を拒みはしねぇが・・・完全に受け入れてる訳じゃねぇ・・・。」 「さすがに好きでもない男とこんなことはしないわよ?」 「・・・ああ、だろうな。けど――――」 そこで彼は先を続けることを止め、彼女の背に回した腕に更に力を込める。 は無言で自らも彼の体にそのしなやかな腕を絡めた。 重なる、互いの生命の音。 の心臓。 エリオットの時計。 だが彼ははっきりと感じ取っていた。 自身の指針の刻む音の速度が、明らかに彼女のものよりも勝っていると。 僅かなすれ違い。 されどそれが全てを物語っている。 エリオットが望めばは必ず彼に身を任せるだろう。 だが、そのハートは、決して彼のものではあり得ないのだ。 彼女はまさに各地を渡り、羽ばたく鳥だ。 自由奔放であり、彼の心を魅了して止まない、美しい翼をもつ、鳥。 |