「愛しいとかそんなの言えるわけない」 クロノメさん 愛しいとかそんなの言えるわけない 「馬鹿みたいだと思わないか?何が悲しくてたかだか一時的な感情の惚れたはれたで命まで落とさなきゃならんのかさっぱりだ。だいたい仮死状態になるようなクスリがあるとするのならそれをみすみす与えたその人間に罪があると思うね俺は。いくら二人が可哀相だからだといってそんな本当に聞くのかどうかもわからんようなものを若い娘に与えるなんてそいつの頭がどうかしているとしか思えない。ましてや女が死んだからなどというしょうのない。わざわざ自分が死ぬ意味があるのか?死んでそこで確実に会えるとでも?馬鹿だな。二人そろって馬鹿だ。夢を見る価値もない。だいたい敵同士だというのなら見た瞬間恋じゃなくて憎しみに燃えろよ。そういうところからして俺は嫌だね。あぁ本当に嫌だ。死ねばいい」 「・・・何の話か説明を頼めるか?」 「だからどこぞの演出家が書いた本でな、若い男と女が敵同士の家に生まれて一目惚れして周りからやめろやめろ言われてこりゃもう二人一緒になるにはーというかんじで女のほうが仮死状態になるクスリをもらって飲むんだけど、相手の男がそのこと知らなくて本当に死んだと思って自殺して、それを知った女があとを追って死ぬっつー喜劇」 「それは、喜劇なのか?」 「一般的に悲劇といわれるものなんじゃないのか?」 「喜劇といわずしてなんだというんだ?勝手に相手に何も告げずに毒薬を飲むなんて正気の沙汰じゃないな」 「恋愛というものは人を愚かにするものだ。くだらん」 「本当にくだらないよな。そんなもの、この世にあるから世の中が狂うんだ」 「しかし意外だな」 「何がだよ」 「お前がそのような恋愛に関するものを読んでいるということがだ」 「別に。一般常識だろ。もっとも俺の国民性からいってこういう手の口から砂どころか何か別のものが出てきそうなほどに糞甘ったるい話なんて受け付けないんだがな。大まかな話はよく聞くよ。ほら、若い娘さんはそういう手の話好きだからさ。俺にもよく話してくるわけだよ」 「お前も若い娘だということをよく思い出せ」 「若い娘っちゃ若い娘ですがね。なんだよ、ユリウス、俺にそんな若い娘だと思うようなところがあるとでも?いやあまいったな!ユリウスを誘惑しちまっ」 「頭は正気か?」 「俺の頭を疑ってどうする!なんだよーちったあ冗談に乗る程度の柔軟性は必要だと思うぜー」 「そんなものいらん」 「まあユリウスはそのままが一番なのは確かだな。でないと面白みがない」 「人で遊ぶな!」 「でも、本当にくだらない」 「そういうものを好んでみる人種は世の中に多いらしいからな」 「なあ、ユリウス」 「なんだ、。冗談ならよそで言え」 「きめつけんなよ。俺のことをお前は本当になんだとおもってんだ。俺よりも乙女なくせに」 「誰が乙女だ。誰が。それにお前もたまには女らしい格好の一つでもしてみたらどうだ。暇つぶしにぐらいなるだろ」 「じゃあ時計塔の下からはしごもってきてやるからユリウスちゃんと言えよ。なんでお前はなんだって」 「この時計塔にかかるほど長いはしごなんてあるのか?」 「そこはつっこむか」 「なんでお前がお前かなどそんなもの、お前だからに違いないだろう」 「そりゃそうだ。ま、ユリウスだからなーいいけど」 「何が言いたいんだ?」 「いいや、独りよがりさ。忘れてくれ」 (間違ってもこの思いを愛しいだなんて思わずに、ただ好きだと思うにとどまれ) |