甘い雰囲気はどうにも苦手だ。仕事とはいえ二人きりの現状でさえ妙に緊張してしまう。
何故なら主にスポーツ方面へ青春を傾けてきた自分に、
恋愛スキルなど一つたりとも存在していないのだから…!

正面の椅子に座って真面目に書類整理をこなしていたはずのエリオットは、
何を思ったか突然に、けれど自然な動作での隣の椅子へと移動する。
唐突に近づいた距離に、先ほどから破裂しそうだった心臓が更に激しさを増す。
…微妙な距離感で触れ合う肩。左半身にぶわりと湿った汗がにじみ出る。

「………し、新規の書類を取って来ます…」

真っ赤な顔をなんとか笑顔に装うが、多分、いや、絶対装えていないと確信していた。
奇妙にひきつる口元を手で押さえて立ち上がろうとするが、エリオットに腕を掴まれてあえなく阻止された。
笑えば殺気が返ってくる日は、昔の話。今は完全に裏を見通されてしまってる。
その証拠にエリオットは楽しそうな笑顔で、強張る体を抱き寄せた。

「あんたってホントに奥手だよな、面白え」
「…面白がられましても。あの、離していただけると有難いのですが」
「装ってる割には声裏返りそうになってるぜ?顔も赤い」
「冷静に分析されましても私はちょっとあのそのホントに離してくれません…!?」

エリオットの唇が首筋あたりを這い回りだすと、流石に冷静な対応をする余裕もなくなった。
慌ててストップをかけれどもネジが一つぶっ飛んでしまったらしいウサギが止まるわけもなく。
…ネジどころか心臓が昇天してしまいそうな自らの胸を押さえ、深呼吸をして、覚悟を決めた。
恐る恐るエリオットの背中へ手を回し、諦めと、諦め以外の何かを含んだため息を吐き出した。


( この愛しさが続く限り慣れそうに無い )






「意地っ張りなこの手を背に回せば」 雨鳴さん(pretend

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