ゲームに干渉すること無かれ。
それが、傍観者のルール。

参加することなく、だたゲームの盤面を眺めるだけ。
それが、の役目。

もし、それを破る事があるならば…代償はその存在にて償うものとする。


「俺は、あんたが好き」

それは、もう何度も紡がれる言葉。
だがそれは、彼女に受け入れられる事はけして無く。
まるで泡沫の如く消え去る運命。

「ねぇ、そろそろ返事をくれない?…俺はこんなにもあんたが好きなのに」
「私は…貴方を好きになれないわ、ボリス」

後ろから少女の腰へと腕を回しゴロゴロ喉を鳴らしてじゃれながらも、何処か拗ねた子供の様に唇を尖らせて言葉を強請る猫。
それに対し強請られる少女、は黙々と視線は手元の本へと落としたまま、それでも穏やかな声でボリスへと拒否の意を述べた。

「また、好きになれないね…いつも、そればっかりだしは」

突っぱねはしないものの確かに強い意志を持つ相手の返答に、ボリスは緩やかに動く尾で抗議を申し立てる様に何度か床を叩くと、顔を寄せる細い彼女の背中へと擦り寄ってみせる。

「それしか答えようが無いじゃない、それが私のルールなんだから」

乾いた音を立てて捲られる頁、新たに話しの進む文面に視線を滑らせるも本当は先ほどからその内容は彼女の頭には入っていない。
それでもそれを妙に勘の良い猫に悟られぬ様、は本へと視線を向けたまま呟く。

「何だよルールなんか、破る為にあるもんだろ?」
「…私からルールを取ったら、此処には存在出来ないわ」

あくまでも返事を変える気が無い事を頑なに示す少女に猫は不満を露に、腰へと回していた手を離すと、肩越しに彼女の手元を覗く様に身体を起こし最早ページが捲られるだけとなった本を掴み、自身の背後へと投げ捨てるように放ってしまう。

そんなボリスには1つ溜め息を吐き出すと、其処には無意識なのだろうか先程まで保って居た穏やかさと余裕は無く。

まるで縋るように、少女が青年へと顔を顔を向ける。
「その時は、俺も一緒に死ぬから安心しなよ」

そんな彼女の目に映るのは真っ直ぐに自分へと向けられる綺麗な月色の瞳と、寄せられる唇の触れる寸前に呟かれる言葉。

そして、押し付けるように重ねられる冷たい感触。



その瞬間、ぐらりと頭の中で何かが崩れる音を傍観者は聞いた。



―――知ってしまったのはたぶん私の罪―――






「知ってしまったのはたぶん私の罪」 悠さん

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